- 受領年2017
- 投資金額¥76,389,000
- 病気NTD(Schistosomiasis)
- 対象Diagnostic
- 開発段階Concept Development
- パートナー長崎大学熱帯医学研究所(熱研), ライデン大学メディカルセンター, Lygature
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論文
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Mio Tanaka, Anna O Kildemoes, Evans Asena Chadeka, Benard Ngetich Cheruiyot, Miho Sassa, Taeko Moriyasu, Risa Nakamura, Mihoko Kikuchi, Yoshito Fujii, Claudia J de Dood, Paul L A M Corstjens, Satoshi Kaneko, Haruhiko Maruyama, Sammy M Njenga, Remco de Vrueh, Cornelis H Hokke, Shinjiro HamanoPotential of antibody test using Schistosoma mansoni recombinant serpin and RP26 to detect light-intensity infections in endemic areas. Parasitol Int. 2021 Apr 12;102346. doi: 10.1016/j.parint.2021.102346. PMID: 33857597
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Kokubo-Tanaka M, Kildemoes AO, Chadeka EA, Cheruiyot BN, Moriyasu T, Sassa M, Nakamura R, Kikuchi M, Fujii Y, de Dood CJ, Corstjens PLAM, Kaneko S, Maruyama H, Njenga SM, de Vrueh R, Hokke CH, Hamano S. Detection and analysis of Serpin and RP26 specific antibodies for monitoring Schistosoma haematobium transmission. PLoS Negl Trop Dis. 2025 Jan 24;19(1):e0012813. doi: 10.1371/journal.pntd.0012813. PMID: 39854314; PMCID: PMC11759395.
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イントロダクション/背景
イントロダクション
住血吸虫症は熱帯・亜熱帯地域に広く蔓延する寄生虫疾患であり、2015年の時点で少なくとも2億1800万人が感染していると推定される[1]。住血吸虫症の制圧計画はプラジカンテルを用いた集団薬剤投与MDAを中心に据えている[2, 3]。現行の診断法は極めて軽度な感染の検出には対応できないので、集団薬剤投与(MDA)の展開に伴い住血吸虫症の制圧が進展するにつれて、より感度の高い診断法が必要となることは明白である。それら制圧プログラムを成功に導き、疾病制圧(排除)後のサーベイランスを可能とするためには、高感度で非侵襲的な新規診断ツールの開発が不可欠である[4]。
プロジェクトの目的
本プロジェクトの最終的な目的は、住血吸虫症のコントロールおよび制圧プログラムに資する新規の迅速診断法を開発することにある。最初の2年は以下に示す概念の検証研究を行い、血液と尿を用いた高感度診断を可能とするタンパクと糖鎖抗原のショートリストを提供する。
MDAの展開に伴い住血吸虫症の制圧が進展すると、感染の低度蔓延地域において感染患者と非感染者を識別できる高感度の検査法が必要となる。住血吸虫虫卵や虫体の粗抗原に対する抗体は治療後も長期間残存するという欠点がある。特定のタンパクあるいは糖鎖抗原に対する特異抗体は治療後比較的速やかに低下し、感染患者と非感染者(治療後一定期間を経た方も含む)の識別に有効に機能すると考えられる。最適な抗原を選定できれば極めて軽度の感染を高感度でしかも尿など非侵襲的に採取した検体で検査でき、制圧(排除)後のサーベイランスに有効に機能すると期待される。
プロジェクト・デザイン
プロジェクトの目的達成へ向けて持続可能なパートナーシップを構築する。
A) 長崎大学熱帯医学研究所(NUITM)はタンパク抗原と住血吸虫蔓延地域からのサンプルへのアクセスならびに血中および尿中の抗体検出、ライデン大学メディカルセンター(LUMC)は糖鎖抗原と診断技術開発、制御下ヒト感染モデルならびに住血吸虫蔓延地域からの生体保存サンプルへのアクセス、Lygatureはコンソーシアムのマネージメントに優れており、それらを活用する。
B) すべてのパートナーからなる意思決定機構として共同運営委員会(JSC)を構成する。LygatureはJSCをサポートする。
C) プログラムの実行・報告のためにワークパッケージを設定する。
D) 将来的に必要なパートナーを同定し緊密なコミュニケーションを図る。
E) 将来的に必要となる資金の調達機会を見出す。
本プロジェクトによって、グローバルヘルスの課題はどのように解決されますか?
本プロジェクトは高感度で非侵襲的な住血吸虫症の新規診断ツールの開発基盤を提供する。優れた感度と特異性を付与する抗原を確定できたら、フィールドに適用可能な抗体検出系の開発を経て、住血吸虫症のモニタリングツールとして大きなインパクトを与える。同診断ツールは住血吸虫症制圧プログラムを成功に導くために不可欠であり、疾病制圧(排除)後のサーベイランスにも大きく貢献する。またマンソン住血吸虫とビルハルツ住血吸虫が共に蔓延している地域では、高感度の種特異的なテストの導入によってMDAの各感染に対する効果とMDA後の各感染の伝播状況をモニタできる。
本プロジェクトが革新的である点は何ですか?
本プロジェクトは以下の革新的なチャレンジならびに研究基盤の上で、高感度でフィールドへ応用可能でかつ手頃な価格の住血吸虫症を検出する新規診断法の開発を目標とする。
- 単一もしくは複数のタンパクあるいは糖鎖抗原に対する抗体の検出
- 尿中抗体の検出
- 診断能の評価に耐えうる高品質コホートサンプルへのアクセス
- ケニアに設定のコホートから新たに集められたサンプル
- セネガル、カメルーン、ブラジル、ガボンなど様々なコホート由来の生体保存サンプル
- 制御下ヒト感染モデル由来のサンプル
各パートナーの役割と責任
NUITMはマンソン住血吸虫とビルハルツ住血吸虫が蔓延するケニアに確立したコホートから新たに治療前後の血清と尿サンプルを経時的に回収・保存する。それら生体サンプルと既存の保存血清を用いて、マンソン住血吸虫のタンパク抗原を探索し抗体検出の標的として最適な抗原を同定する。NUITMはまた尿サンプルの保存条件の検討を行い、タンパクおよび糖鎖抗原に対する反応性を解析する。LUMCは全ての糖鎖抗原の選択と評価を行う。加えて、LUMCは既存のコホートサンプルを管理・提供する。彼らは尿中CCA糖鎖抗原検出キットなど迅速診断テスト開発に卓越しておりプロジェクト全般に貢献する。Lygatureはコンソーシアムを統括し、プロジェクトの進捗、財政、共同研究状況を把握し、期間内のプロジェクト実行を確実なものとする。
他(参考文献、引用文献など)
[1] World Health Organization: http://www.who.int/schistosomiasis/en/, accessed 6 September 2017
[2] World Health Organization .A Roadmap for Implementation: accelerating work to overcome the global impact of neglected tropical diseases. Geneva: World Health Organization; 2012.
[3] World Health Organization: http://www.who.int/schistosomiasis/strategy/en/, accessed 6 September 2017
[4] Stotthard et al Parasitology 2014, 141(14):1947-61.
最終報告書
1. プロジェクトの目的
本プロジェクトは、住血吸虫感染者の血液/尿中に特異的な抗体を検出することで、住血吸虫症の低度伝播地域あるいは対策の結果でエリミネーション前後の地域においても、高感度で精度の高い診断を可能とする診断薬の開発を目的としており、その特異的抗体を検出するために最適な抗原候補となるタンパクと糖鎖を同定します。
2. プロジェクト・デザイン
本プロジェクトでは、抗原候補となるタンパクと糖鎖を同定するために、以下の4つの工程を行います。1.タンパク抗原選定:ELISA によるスクリーニング、2.糖鎖抗原選定:Microarrayによるスクリーニング、3.サンプル管理:治療前後や感染強度を評価するための明確なサンプルを調整、4.進捗管理
3. プロジェクトの結果及び考察
マンソン住血吸虫症およびビルハルツ住血吸虫症の各流行地であるケニアのMbitaとKwaleにおいて、プラジカンテルによる治療の前後に子供たちから糞便、血液と尿を採取しました。その後、糞便または尿中の虫卵、住血吸虫DNA、および尿中循環陰極糖鎖抗原(CCA)、さらに血中の循環陽極抗原(CAA)を検出する高感度実験室検査(UCP-LF)によって現行感染の有無を評価しました。
これら新しく得られた血漿と尿、および既存のコホート検体を用いて、ELISAまたはmicroarray上で検体中のIgG、IgMを定量的に測定することで、タンパクおよび糖鎖候補抗原ライブラリーを評価しました。その結果、80 以上の候補抗原を各3つ以下のタンパクおよび糖鎖候補抗原セットにまで絞り込むことができました。
serpin/RP26を混合すると血漿中IgG検出による診断精度が向上し、特定抗原の組み合わせが、診断精度の向上に重要であることが示されました。また尿サンプルについては、組換え抗原 RP26に特異的なIgGの検出が、ビルハルツ住血吸虫の感染状況をよく反映することが判明しました。全体として、選択した候補抗原に対する抗体と現在の住血吸虫感染との関連、治療前/後の状況との関連、および抗体応答の経時的変化を明らかにしました。これらの知見は、抗原の組み合わせの最適化による診断の感度と特異性のさらなる向上を可能とします。
私たちは、高感度で精度の高い住血吸虫に対する抗体検出法が、低度感染伝播状況、エリミネーションに近い地域、およびエリミネーション後のモニタリングに特に有効であると想定しています。このようなツールの開発は、現在の WHO 2030ロードマップ、ならびに持続可能な開発目標3の「すべてのひとに公平でより良い健康を」という目標に沿ったものであると考えます。